タンメン、一つ
シーズンに1度、通院している病院がある。
その帰りには、いつも大きな墓地の周りをぐるりと歩く。散歩しながら季節の植物を観察するのが、ちょっとした楽しみだ。これを散策というのだろう。
古くからある霊園で、一般人だけでなく将軍や有名政治家も眠っている。
先日の通院終わりにも同じように散策をした。朝は茶漬けしか食べておらず、あまりにも空腹だったので、霊園前の中華食堂に入った。
どうやら家族で営んでだいぶ長く、今の店主は4代目。
私は、店内中ほどの席に通され、一押しの「ラーメン餃子セット」を注文した。
店内はとても清潔で、BGMはジャズ。なかなか居心地が良い。
入り口からすぐの席には、墓参りを終えた老夫婦、奥の席には地元の中年男性2人組。
隣の席は恰幅の良い男性。地元の問屋主人のようで、食堂の女将と「この間はありがとうございました」「この間のは半年寝かせたものなんですよ」「そんな手のかかったものを、通りでとてもよく…」「いいのが入ったらまた連絡しますよ」そんな会話をして会計を済ませ、店を後にした。
店内の観察をしていると、ラーメンと餃子が運ばれてきた。
これは立派なジャンボ餃子。肉汁ジュワ、野菜の甘味、もちもちの皮。
猫舌なのに、ぺろりと食べてしまった。
ラーメンもオーソドックスで安心できる味とトッピング。
舌鼓を打っていると、隣の席に初老の男性がやってきた。
襟付きシャツにジャケット、折り目のついたウールのパンツを纏い、背中をしゃんと伸ばして椅子に腰掛けた。取り出したのはスマホではなく手帳だ。何かを確かめ、ジャケットから取り出したボールペンで何かを書き留めたのがわかった。
思わず私も、姿勢を正す。
男性にお冷が運ばれてくると
「タンメン、一つお願いします」
静かにそう言った。
私の勝手な妄想だが、男性は友人の墓参りに来たのだ。
若い頃から家族ぐるみで親しくしていた友人。しかし友人は幼い子供を残して齢40にして他界。
妻とともに友人の命日には毎年墓参りをし、この中華食堂で2人食事をしていたが、最愛の妻も2年前に旅立ってしまった。
彼にとってきっと思い出のタンメンなのだ。
そんなことを考えながらスープを啜っていたら、私の丼は空になっていた。
気がつけば入り口の客も入れ替わり「半チャン半ラーメン頼んだんだけど、これ1人前チャーハンじゃないか」というお客からの指摘。
あらあら。私が食べてあげたい。(そういう問題ではない)
ご馳走様。